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平成17年9月 15日

平成17年度 青税兵庫研究部海外研修報告 研究部副部 長和田 真一

研究部副部 長和田 真一

本海外研修1日目の9月15日は、上海邁伊茲咨詢有限公司事業統括部シニアマネージャーである公認会計士の工藤敏彦氏に、日中間における移転価格税制の適用の実情と今後の展望についてお話を聞きました。工藤氏は(社)租税研究会税制調査団の代表として、中国の租税行政の政策を担当する国家税務総局との意見交換、実際に租税行政の執行を行っている中国地方税務当局に対し我が国の移転価格税制執行上の諸問題を解説する等の豊富な経験を有し、国際税務についての第一人者として活躍しておられます。

これまでは、大企業においても、中国での移転価格課税額がまだ巨額の域に達していなかった(具体的には千万円単位)せいからか、欧米諸国との取引での備えに比べれば軽い対応になっており、まして中小企業においては、こうした問題の存在すら認識していない傾向にありました。現に、税務を取り扱うビジネスとしても、中国の移転価格税制のみでは成り立たないというお話でした。しかし目下、日本の最大の貿易相手国として中国が米国を抜いてトップとなりました。企業はアジア地域への海外事業展開を進め海外取引を増大させています。移転価格課税のリスクも欧米から中国を中心としたアジア地域へ移ってきており、件数的にも金額的にも拡大していく(具体的には億円単位)ことが予想されます。

移転価格の主な調整方法としては、「独立価格比準法」「再販売価格基準法」「原価基準法」の3つの独立企業間価格の算定方法があります。これら3つの方法が適用できないときにその他の合理的な方法として利益に着目したいくつかの方法があります。価格の算定方法とは別に、納税者が税務当局に申し出た独立企業間価格の算定方法等について、税務当局がその合理性を検証し確認を与えた場合、納税者がその内容に基づき申告を行っている限り、移転価格課税は行なわないことを保証する制度として事前確認制度(Advance Pricing Arrangement:APA)があります。特に二国間APA(バイラテラル)は、取引の当事者を所轄する税務当局間で相互協議を行ない、移転価格課税の予測可能性を確保すると同時に二重課税のリスクを減少させることを目的としており、双方の国から法的な安定性を得ることができます。2005年4月、国税庁は、中国・深センの経済特区に工場を有する日系企業が申し立ていた二国間APAについて、両国税務当局が合意に至ったことを公表しました。中国とは初合意であり、今後そのバイラテラルAPAの件数が増えることが予想されます。また、独立企業間価格の算定上、比較可能な情報の確保が制約されている中国においてはその問題解決に有効な手段ともなります。

事前確認制度は納税者の任意による申出により行なわれます。専門家への依頼費用、納税者企業の人的資源の負担など、多額の費用と時間を要する場合が多く、中国に進出している中堅・中小企業の多くは、このような負担に耐えることは困難な状況にあります。申請の対象となる取引金額の大きさや移転価格課税のリスクの度合、申請手続きの煩雑さ、などを考慮することが必要となります。一般に、取引金額の規模の小さいものや移転価格課税のリスクの少ないものは、事前確認の申請対象としないことが考えられます。日本の税務当局も、表面上は金額の縛りを設けていませんが、統計上は1件当りの課税所得額は12億円強(国税庁HP上の2003年事務年度の移転価格の執行状況データから)、実際には更正所得額で5億円程度からであるとのお話でした。中国税務当局においては公式ベースでの公表はなく、非公式な情報によれば1991年から2003年までに移転価格調査件数は10,000件を超え関連書籍によると、2003年時点での1件当たりの課税所得金額は5000万円程度であります。従いまして、中国現地法人を有する顧問先に対しては、今後は移転価格課税における課税所得金額や追徴税額は年々増大する可能性がある一方、その救済措置のハードルが高い為、先ずは自主防衛や専門家への相談を行い、初歩的対策を講じておくべきである、ということを伝える必要があるものと存じます。