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平成17年9月 15日

平成17年度 青税兵庫研究部海外研修報告 大川 峰子

大川 峰子

ちょうど3年ほど前になるのか、ちょっとした中国株バブルが起こっており、ご多分にもれずその流行に乗っかったのが中国という国に興味をもつきっかけでした。当時上海にて実際に働いておられた永岡部長が帰国するなり、掴まえては中国での景気や企業会計についてあれやこれや(不純な動機で!?)質問しておりました。きっと永岡部長には「中国経済に興味がある」と良い風に勘違いをして頂いたのでしょう。締め切りを過ぎた申し込みにも快く対応して頂き、また幹事の皆様にも参加をご承認いただいたことを、この場を借りて御礼申し上げます。

話は上海に戻りますが、アパレル企画会社や、婦人服やアクセサリー雑貨を扱う顧問先はこぞって上海に出掛けており、中には「上海にショップを持ちたい」というような相談も持ちかけられています。ショットバーを営む顧問先からも「上海か台湾に店出されへんのかなぁ」という声があります。いま経営者の目は確実に中国に向いています。確か一昔前は皆こぞってアメリカを目指していたのではなかったでしょうか。

中国華東地区での日系企業の現地視察という研修内容に、はりきって参加することを決めました。そしてこの研修では日本企業の進出の際の現地法人の設立手順をテーマにすることにしました。

研修参加が決まり、予備知識のために中国現地法人の運営の本を読み始めると、中国ではいわゆる日本人の個人営業というのが認められていないということが分かりました。正直この時点で自分の顧問先には荷が重いなと感じました。あらゆる国で華僑の人々が中華レストランなどを(多分個人で)営んでいるのに、自分の国はいたって閉鎖的じゃないかと思いましたが、とにかく中国で日本人が小規模で気軽に商売を始めるというのは不可能なようです。どうしても個人でというなら、現地で信頼できる中国人のパートナーを見つける他はないでしょう。

それでは現地法人で聞かせて頂いたお話や資料をもとに、実際の現地法人設立の手順についてご紹介したいと思います。

まず中国では個人営業が認められていないため、「独資企業」「合弁企業」「合作企業」のいずれかの形態で法人を設立せねばなりません。資本を提供しあえるパートナーが中国側にいないのであれば独資企業ということになります。もうひとつ「駐在員事務所」という形態もありますが、こちらは営業活動が認められていないので省略致します。

今回視察させて頂いた現地法人(以下A社)は製造業であったため、現地工場設立の流れをみていきたいと思います。まずは、現地を仕切る人間を誰にするのか?ということから考えなければなりません。一般的には同族企業の役員が総経理として現地へ赴くケースが多いようです。ただ、この場合も問題は多く、日本からの多額の投資を背負い、中国語も中国人の性質も全く理解できないままマネージメントするということになりがちです。もちろん言葉の問題は通訳を使えば済むわけですが、A社総経理のお話では、「有能な通訳」を探すこと自体が難しいのだそうです。反対に有能な通訳を見つけられたら、成功への1ステップを踏み出せたと言えるのでしょう。

A社総経理は他の会員の説明でもありますが、本社同族役員ではなく、現地で採用された日本人の方です。ご本人も「ごく稀なケースです」とおっしゃっていました。総経理は他の日系企業で現地法人の立ち上げに副総経理として携わっておられた経験を買われ、董事長からスカウトされたというような経緯でした。

次に悩むのは場所をどこにするか?という問題です。中国には様々な経済特区があり外資系企業の誘致が行われています。もちろん海側の輸出入に便利なところは競争率も高く、既存の企業で埋まっていますから、最近では少し内陸の方に特区は広がっています。A社総経理によると、色々な地域を回って無錫に帰って来たときに「ホッとした」というフィーリング(!?)で決定されたとのことです。中国に15年も暮らす日本人としての直感は他の方よりも鋭いものなのでしょうが、具体的な条件や決め手を聞きたかった私としては、残念ながら参考になりにくいアドバイスでした(笑)

場所が決まれば様々な設立準備書類の作成にかかります。まずは、土地建物の契約、各種許可の申請、登記申請などです。A社の場合、無錫にある現地商業銀行が階上の空き部屋を準備オフィスとして無料で提供してくれたそうです。もちろん融資を受けるからなのでしょう。ここは他の設立準備企業も使用し日本の産業振興センターみたいだなと思いました。

A社はいわゆる開業コンサルタントによる設立パックのようなものは一切使用せず、すべて総経理自ら役所と交渉し、建設業者を選定し、スタッフを雇い、準備を進めたそうです。これはA社総経理が実際に設立を経験されている(また語学にも堪能である)からこそのことで、そういうコネが無い日本企業は○百万~○千万円のコンサルタントフィーを覚悟した方が良いでしょう。

土地の権利については、すべて国有地であるため借地となるのだそうですが、よく確認しないと地目によっては工場を建てられなかったり、名義人変更がされなかったり、持ち主が知らぬ間に他者に変わっていたりと色々トラブルが多いようです。契約は土地を扱うことのできる専門の弁護士などを通してしっかりと確認した方が良いようです。A社ではいざ建設を始めてみると地盤が悪いことが分かり、ヘドロの撤去等思わぬ経費と時間がかかったそうです。こういった下調べも大切なようです。

あとはいわゆるお役所関係に設立及び営業等の各許可申請書を提出し、許可証を発行してもらいます。実物を見せて頂きましたが、真っ赤な厚紙に金色の縁取りで「批准証書」「営業許可証」とされており、いかにも中国らしいものでした。また登記(漢字は難しいですが)など日本語と同じ表記のものが多く理解しやすいです。

また、設立準備にはスタッフの雇用も重要です。A社では毎週土曜日に開かれている地元の就職フェアのようなところで、総経理自らが面接をされておられるとのことでした。こちらの社長は社長室にいる暇が無いほど動き回っておられます。

スタッフについて、中国らしいなぁと思ったエピソードとしては、総経理宛に工場のお弁当の内容についての不満の投書があったであるとか、昼休みに仕事がかかると少々不機嫌になるだとか、食についてはこだわりがあるということでした。

以上、中国での現地法人設立の流れについて簡単にご紹介いたしましたが、総経理のおっしゃるところによると、「一つ一つ塗りつぶすように進めていけば、必ずやりとげることができる」とのことでした。

現地法人は設立してからがやっと本番です。本当に手探りで大変なことではあるのでしょうが、そこには大きな夢や希望があって「絶対成功するんだ」という強いエネルギーを感じました。

最後になりましたが、この研修を快く引き受けて下さった現地法人関係者の皆様、上海マイツの皆様に厚く御礼申し上げます。